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光の勘定 HIKARI NO KANJOU — 光と退色の記録

表紙

見た分だけ、

飾っているフィギュアも、単行本の帯も、壁のポスターも、見ている光そのものによって少しずつ褪せていく。

たいていはUVカットのフィルムやガラスを貼って対処しようとする。だが、それでは止まらない。

止める方法は無い。遅くする方法はある。その方法と、根拠と、言える範囲だけをこのページにまとめた。

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一・UVカットB–D

なぜ、UVカットでは止まらないのか

UVフィルタを貼れば安心だと、多くの人が思い込んでいる。だが光に敏感な色ほど、その前提は崩れる。カナダ政府の保存科学機関がそう指摘している。

光に敏感な色では、UVが担う退色の割合は半分未満。しばしば1割ほどだとこの文書は書く。 残りの大半は、UV以外の光、つまり見るために当てている光そのものによるものだ。フィルタを一枚足しても、 そこは変わらない。

原文 — Michalski, CCI

"For colours that are sensitive to light — the crux of the museum lighting dilemma — UV usually contributes less than half of the fading and often only one tenth; therefore, it does not allow one to think any differently about reducing light exposure."

この文書は、浴びた光の量を0からDまでの五段で区分している。0は光をまったく浴びていない状態、Dが最も多い。数値ではなく、順序だけを示す呼び名で、このページのあちこちに出てくる。

同文書 Figure 3a/3b の観察(UVフィルタの有無による退色実験、B/B*・C/C*・D/D* の比較)。 UVフィルタの有無より、光の量の段階そのものの差のほうがずっと大きいという結果が出ている。

出典 — CCI, Figure 3a/3b

UVフィルタの有無による差(B対B*、C対C*、D対D*)は、目につくこともあるが、光の量の段階そのものの差(A対B対C対D)に比べればずっと小さい。

UVフィルタの
有無の差
光の量の段階
A→B→C→D の差

フィルタを足すことより、段そのものを動かすこと、つまり浴びる光の量を減らすことのほうが効く。ここでも話は同じところに落ち着く。

Table 4 が示す、色の感度による差

同文書 Table 4「ISO Blue Wool 標準で、やっと気づく程度の退色(Grey Scale 4)が起きるまでのおおよその光の量」より。 単位は Mlx·h(メガルクス時)。倍率・寄与率はここで生値から出した計算で、生の数値そのものは文書に記載されている。

ISO Blue Wool #8(低感度)→ #1(高感度)
Blue WoolUVありUV除去倍率UVの寄与率
#812010008.3×88%
#7503006.0×83%
#6201005.0×80%
#58303.75×73%
#43.5102.9×65%
#31.532.0×50%
#20.611.7×40%
#10.220.31.36×27%

#1(もっとも光に敏感な区分)ではUVの寄与は27%まで下がる。本文にある「しばしば1割ほど」は、この表よりも強い言い方だ。 これは文書本文の記述として引用しているだけで、表から確実に読み取れるのは「敏感な色ではUVの寄与は半分未満」というところまで。 この表は主張の根拠として使うもので、あなたの部屋の退色年数を計算する式には使わない。照度もBlue Wool等級も、こちらには分からないからだ。

二・LED0–B

UVが無い照明でも、褪せるのか

光源によってUV出力はまるで違う。白色LEDはその中でもとりわけ少ない。単位はµW/lm(光1ルーメンあたりの紫外線マイクロワット)。

CCI Table 2a / 2b「光源別のUV出力」
光源UV出力 µW/lm文書中の評価
白熱電球(traditional incandescent)75low
クォーツハロゲン(ガラス越し)100–200medium
蛍光管(UV-STOP表示)40low
蛍光管(大半)75–150low to medium
蛍光灯(コンパクト型)100–150medium
HID(高輝度放電)—most high to very high
白色LED0–75very low
昼光(daylight, Table 2b)300–600very high

同文書 Table 5 では昼光について別の値(daylight spectrum ~600–1000 µW/lm、屋外平均30,000 lux)も示されており、 Table 2b の300–600とは食い違う。文書はこの差の理由を明示していないため、ここでも断定しない (屋外直射と窓越し屋内の違いという可能性はあるが、記載がないので推測扱いに留める)。上表は Table 2b の値。

白色LEDのUV出力は 0–75 µW/lm。同表でもっとも低い部類だ。だからCCIは、LED照明にUVフィルタを 「不要」と明言している。つまりLEDだけで照らしている棚が褪せているなら、 その原因をUVに求めることはできない。残る変数は、照度と時間、つまり浴びる光の量だけになる。

原文 — CCI, Table 2b「UV filter Possibilities」白色LED列

"Not necessary."

三・決め手0–C

では、何が退色を決めているのか

UVでないなら、何が退色の速さを決めているのか。カナダ文化財保存研究所の答えは単純だ。浴びた光の量、それだけだと言っている。

唯一の手段は、露光量(照度×時間)を減らすことだと、この文書ははっきり書いている。

出典 — Michalski, CCI

展示照明による退色を減らすには、なかでも進みの速い退色を減らすには、選べる道はひとつしかない。浴びる光の量を減らすことだ。

露光量=照度×時間
露光量とは、浴びた光の量のことだ。照度は明るさ、時間は当たっている長さ。掛け算だから、どちらを減らしても、浴びる光の量は減る。

0からDの目盛りは、この露光量が段階的に増えていくことを示す呼び名。順序だけを示し、数値ではない。

断定してよいのは、計算できる場合だけ。 光源・その出力・設置位置・比較する時間帯が全て同一で、ただひとつの変数だけが違う場合に限る。

たとえば、同じ照明・同じ場所のまま点灯時間を8時間から4時間に減らせば、浴びる光の量は半分になる。 直射日光が当たる時間帯にだけ遮れば、遮らない場合より少なくなる。同じ部屋・同じ位置で、不透明な箱にしまえば、出したままにするよりずっと少なくなる。 条件を一つだけ変えたときにだけ、こう言い切れる。窓からの距離や向き、カーテンの色まで含めて比べ始めると、その先はもう計算ではなく当てずっぽうになる。

四・減らし方0–C

では、何をすればいいのか

露光量は照度×時間で決まる。だから減らし方は、このどちらを減らすかで分かれる。五つある。どれが一番とは言わない。条件は人によって違うからだ。

これは光の量の相対的な比であって、予測ではない。 以下の×印はすべて「条件を一つだけ変えたときの、浴びる光の量の比」であり、退色の速さ・製品の寿命・安全に飾れる期間を示す数字ではない。
01 照度を減らす
窓とカーテンの間に光を遮る面が置かれ、棚に届く光の量が減っている様子を示した図
光の量(相対) 例(直射の半分を遮った場合)
×1 ×0.5

遮る

直射日光が当たる時間帯だけ、その経路を物理的に遮る。窓と棚のあいだに一枚挟むだけで、その面に届く分は減る。

02 照度をほぼゼロにする
不透明な箱の中に物が収まり、光が全く届いていない様子を抽象的に示した図
光の量(相対) 例(出しっぱなし → 不透明容器)
×1 ≈0

しまう

不透明な容器にしまう。棚に出さない時間は、浴びる光がゼロの時間そのものになる。

03 時間を減らす
時計の文字盤の一部だけが照明の点灯時間を示す弧で塗られている図
光の量(相対) 例(点灯8h/日 → 4h/日)
×1 ×0.5

点灯時間を減らす

同じ照明・同じ場所のまま、点けている時間だけを短くする。器具や位置を変えなければ、時間に比例して浴びる光の量は下がる。

04 照度を減らす
調光つまみが低い位置に回され、光源から出る光の量そのものが少なくなっている図
光の量(相対) 例(出力を半分に調光)
×1 ×0.5

照度を下げる

光源そのものの出力を下げる。同じ時間だけ点けていても、そこを流れる光の量が減る。

05 時間を減らす
棚の一部だけが照らされ、残りは影の中に置かれている、展示替えを示す図
光の量(相対) 例(2点を交代で展示)
×1 ×0.5

交代で出す

常に全部を並べず、入れ替えながら展示する。一点あたりが光の下にいる総時間は、そのぶん短くなる。

五・境界0–B

どこまで言えて、何が言えないか

正直に書かなければ意味がない。ここまでの話の境界線を、そのまま書く。

目盛りの0からDは、CCIの実験に出てくる、浴びた光の量の段階の呼び名だ。同文書はそれぞれの段の光の量を、 A: 0.17 Mlx·h(日光1日、または50 luxで1年相当)から D: 17 Mlx·h(日光8か月、または50 luxで400年相当)まで引用の形で示している。 これはCCIが試験材料に当てた光の量であって、こちらが計算した数字ではないし、あなたの持ち物がこの段でこう褪せるという予測でもない。

言えること

  • 敏感な色ではUVの寄与は退色の半分未満
  • LED照明にUVフィルタは「不要」(CCI Table 2b)
  • 退色を減らす手段は、露光量(照度×時間)を減らすことだけ
  • 光源別のUV出力(µW/lm)は文書の表として引用できる
  • ISO Blue Wool の等級ごとに、やっと気づく程度の退色が出るまでの光の量は、主張の根拠として使える

言えないこと

  • UV-A・UV-B、帯域別の透過率の具体的な数値 検索すると「UV-Bはほとんど透過しない」「1枚ガラスでUV-Aの30〜40%カット」「70%以上透過」など、数値と出典が対応しない記述が併存していた。一次出典が見つかっていない以上、数字は書かない。
  • あなたの部屋の、退色までの年数 計算には照度(lux)と、所持品のISO Blue Wool等級の両方が要る。どちらも読者もこちらも知り得ない。
  • 特定の商品が退色を「防ぐ」こと 遮光・不透明・調光・時間制御。確認できる性質はあっても、退色そのものを止める保証ではない。

こう言いたくなるが、成り立たない

  • 「カーテンを閉めている時間が長いほど、退色は少ない」 夜に閉めても意味がない。光が当たらない時間帯にいくら閉めても、浴びる光の量は変わらないからだ。比べるなら同じ時間帯どうしで比べる必要がある。
  • 「窓からの距離や向き、点灯時間を総合して棚の安全度を順位づける」 南向きの遠い窓のほうが、北向きの近い窓より厳しいこともある。距離や向きだけでは順位はつかない。点数にしなくても、根拠のない当てずっぽうであることは変わらない。

目盛りは0からDまで。言えるのは、この並び順があるということだけ。あなたの棚が今どの段にいるかは、照度計がなければ分からない。

六・道具A–D

光を減らせる道具

ここに挙げるのは退色を止める製品ではない。届く光の量か、照らされている時間を減らす。その性質だけが確認できたものに限る。

遮る

適格条件:遮光等級が商品名に明示されている

しまう

適格条件:不透明であることが仕様に明記されている

点灯時間を減らす

適格条件:タイマー・スイッチ・センサーで点灯時間を制御できる

照度を下げる

適格条件:調光が可能であることが明示されている

全14点に共通:いずれも退色そのものを止める効果は確認されていない。「できないこと」欄は、それぞれに固有の限界だけを記す。

Amazonのアソシエイトとして、光の勘定は適格販売により収入を得ています。

奥付0–D

出典

  • 公的機関の技術文書

    Stefan Michalski, "Agent of Deterioration: Light, Ultraviolet and Infrared"

    Canadian Conservation Institute(カナダ文化財保存研究所、カナダ政府機関)

    CCI 技術文書 — Agent of Deterioration: Light, Ultraviolet and Infrared

    このサイトの中核となる引用・数値(本文の主張、Table 1、Table 2a/2b、Table 4、Figure 3a/3bの観察)はすべてこの文書から。

  • メーカー技術解説(参考・非採用)

    AGC旭硝子プラザ「ガラスの豆知識」

    AGC旭硝子プラザ「ガラスの豆知識」

    3mm厚透明板ガラスの紫外線透過率74.3%(ISO 9050、波長300〜380nm)が最もよく引用される数字だが、 このサイトではそのまま提示しない。300〜380nmを一括した値であり、UV-A・UV-B別の内訳を示していない。 つまり「見た目の退色にどれだけ効くか」という問いには答えていない数字だからだ。