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光の勘定 HIKARI NO KANJOU — 光の見本帳

帳簿 第一葉・表紙

見た分だけ、

棚のフィギュアも、単行本の帯も、飾ったポスターも、見ている光そのものによって少しずつ褪せる。 UVを遮れば止まる話ではない——それがこの見本帳の全部だ。

結論

UVカットでは、退色は止まらない。

算式

露光量 照度 時間

出典

カナダ文化財保存研究所(Canadian Conservation Institute — カナダ政府機関)の技術文書。 減らせるのは、この式の右辺だけ。

目盛り 0 / A / B / C / D — 露光量が右へ行くほど増える、という順序だけの指標。この五段が以降すべての葉の位置を決める。

カナダ文化財保存研究所(CCI)の実験区分 A〜D に対応する呼び名。この帳簿ではこの目盛りを、 「あなたの持ち物がこう見えるようになる」という予測には使わない。 使うのは一貫して「量の順序」だけ。同文書はA〜Dの露光量を A: 0.17 Mlx·h(日光1日、または50 luxで1年相当)〜 D: 17 Mlx·h(日光8か月、または50 luxで400年相当) と記載しており、 この帳簿ではその数値をそのまま引用として掲げる(当方の計算ではない)。

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第二葉・原理B–D

「UVカットでは、止まらない」

UVフィルタを貼れば安心——その前提が、光に敏感な色ほど崩れる。カナダ政府の保存科学機関が、そう書いている。

光に敏感な色にとって、UVが担う退色の割合は半分未満、しばしば1/10だとこの文書は述べる。 残り9割はUVではない光——つまり見るために当てている光そのもの——の仕業になる。フィルタを一枚足したところで、 そこは動かない。

原文 — Michalski, CCI

"For colours that are sensitive to light — the crux of the museum lighting dilemma — UV usually contributes less than half of the fading and often only one tenth; therefore, it does not allow one to think any differently about reducing light exposure."

唯一の手段は、露光量——照度 × 時間——を減らすことだけ、と言い切っている。

原文 — Michalski, CCI

"To reduce the fading of collections due to display lighting, especially the most rapid fading, there is only one option: reduce light exposure."

同文書 Figure 3a/3b の観察(UVフィルタの有無による退色実験、B/B*・C/C*・D/D* の比較)。 UVフィルタの有無より、露光段階そのものの差のほうがずっと大きい、と述べている。

原文 — CCI, Figure 3a/3b

"Note that the differences between the presence or absence of a UV filter (B vs. B*, C vs. C*, D vs. D*), while sometimes noticeable, are much less significant than differences between different exposures (A vs. B vs. C vs. D)."

UVフィルタの
有無の差
露光段階
A→B→C→D の差

フィルタを足すより、段そのものを動かす——つまり露光量を減らす——ほうが効く、という同じ結論に戻ってくる。

Table 4 が示す、色の感度による差

同文書 Table 4「ISO Blue Wool 標準できわめて目視できる退色(Grey Scale 4)を起こす概算光量」より。 単位は Mlx·h(メガルクス時)。倍率・寄与率はこの帳簿側の算術(生値は文書記載)。

ISO Blue Wool #8(低感度)→ #1(高感度)
Blue WoolUVありUV除去倍率UVの寄与率
#812010008.3×88%
#7503006.0×83%
#6201005.0×80%
#58303.75×73%
#43.5102.9×65%
#31.532.0×50%
#20.611.7×40%
#10.220.31.36×27%

#1(もっとも光に敏感な区分)ではUVの寄与は27%まで下がる——本文の「しばしば1/10」はこの表よりさらに強い言い方で、 文書本文の記述としてのみ引用している。表から読み取れる範囲は「敏感な色ではUVの寄与は半分未満」まで。 この表は主張の根拠として使うもので、あなたの部屋の退色年数を計算する式には使わない(照度もBlue Wool等級もこちらは知り得ないため)。

第三葉・原理0–B

「LEDなら、UVはもう無い」

光源によってUV出力はまるで違う。単位は µW/lm(光1ルーメンあたりの紫外線マイクロワット)。

CCI Table 2a / 2b「光源別のUV出力」
光源UV出力 µW/lm文書中の評価
白熱電球(traditional incandescent)75low
クォーツハロゲン(ガラス越し)100–200medium
蛍光管(UV-STOP表示)40low
蛍光管(大半)75–150low to medium
蛍光灯(コンパクト型)100–150medium
HID(高輝度放電)most high to very high
白色LED0–75very low
昼光(daylight, Table 2b)300–600very high

同文書 Table 5 では昼光について別の値(daylight spectrum ~600–1000 µW/lm、屋外平均30,000 lux)も示されており、 Table 2b の300–600とは食い違う。文書はこの差の理由を明示していないため、この帳簿でも断定しない (屋外直射と窓越し屋内の違いという可能性はあるが、記載がないので推測扱いに留める)。上表は Table 2b の値。

白色LEDのUV出力は 0–75 µW/lm——同表でもっとも低い部類。だからCCIは、LED照明にUVフィルタを 「不要」と明言している。ということは、LEDだけで照らしている棚が褪せているなら、 その原因をUVに求めることはできない。残る変数は露光量——照度と時間——だけになる。

原文 — CCI, Table 2b「UV filter Possibilities」白色LED列

"Not necessary."

第四葉・実践0–C

「同じ条件で、ひとつだけ変える」

窓からの距離や向き、カーテンの色、点灯時間から「退色の順位」を出すことはしない。 南向きの遠い窓が、北向きの近い窓を上回ることもある——単調な指標ではないからだ。

断定してよいのは、算術だけ。 光源・その出力・設置位置・比較する時間帯が全て同一で、ただひとつの変数だけが違う場合に限る(露光量 = 照度 × 時間)。

点灯時間だけが違う

点灯 8h/日点灯 4h/日
  • 照明器具
  • 設置位置
  • 照度

露光量は半分になる。ただし照明を替えれば照度も変わるため、この計算は同じ器具・同じ場所のときだけ成立する。

遮っている時間だけが違う

直射の時間帯に遮らない同じ時間帯に遮る
  • 設置位置
  • 比較する時間帯

直射日光が当たる時間帯に遮れば、遮らない場合より露光量は少ない。「時間帯を揃えて比較する」が条件。

収納の透明性だけが違う

開架不透明な箱
  • 部屋
  • 設置位置

同じ部屋・同じ位置で、不透明な箱に収めれば開架より露光量は少ない。「不透明」と明記されている場合のみ成立する。

却下した比較(初版・rev2のうち、根拠がなく撤回したもの)

  • 「カーテンを閉めている時間が長いほど露光量は少ない」——誤り。夜間に閉めても露光量は変わらない。比較する時間帯を揃えなければ何も言えない。
  • 「窓からの距離・向き・点灯時間の総合スコアで棚を順位づける」——南向きの遠い窓が北向きの近い窓を上回ることもあり、単調な代理指標にならない。数値化をやめても、根拠のない推論はやめたことにならない。
第五葉・実践0–C

「打ち手」

露光量 = 照度 × 時間。だから打ち手は、このどちらを減らすかで分かれる。優劣は付けない——条件が人ごとに違うため。

これは相対露光量の比であって、予測ではない。 以下の×印はすべて「条件を一つだけ変えたときの露光量の比」であり、退色の速さ・製品の寿命・安全に飾れる期間を示す数字ではない。
01 照度を減らす
窓とカーテンの間に光を遮る面が置かれ、棚に届く光の量が減っている様子を示した図
相対露光量 例(直射の半分を遮った場合)
×1 ×0.5

遮る

直射日光が当たる時間帯だけ、その経路を物理的に遮る。窓と棚のあいだに一枚挟むだけで、その面に届く分は減る。

02 照度をほぼゼロにする
不透明な箱の中に物が収まり、光が全く届いていない様子を抽象的に示した図
相対露光量 例(開架 → 不透明容器)
×1 ≈0

しまう

不透明な容器に収める。棚に出さない時間は、露光量の計算に入らない時間そのものになる。

03 時間を減らす
時計の文字盤の一部だけが照明の点灯時間を示す弧で塗られている図
相対露光量 例(点灯8h/日 → 4h/日)
×1 ×0.5

点灯時間を減らす

同じ照明・同じ場所のまま、点けている時間だけを短くする。器具や位置を変えないなら、時間に比例して露光量は下がる。

04 照度を減らす
調光つまみが低い位置に回され、光源から出る光の量そのものが少なくなっている図
相対露光量 例(出力を半分に調光)
×1 ×0.5

照度を下げる

光源そのものの出力を下げる。同じ時間だけ点けていても、そこを流れる光の量が減る。

05 時間を減らす
棚の一部だけが照らされ、残りは影の中に置かれている、展示替えを示す図
相対露光量 例(2点を交代で展示)
×1 ×0.5

交代で出す

常に全部を並べず、入れ替えながら展示する。一点あたりが光の下にいる総時間は、そのぶん短くなる。

第六葉・注意0–B

「言えること/言えないこと」

見本帳は正直でなければ意味がない。この帳簿の境界線をそのまま書く。

言えること

  • 敏感な色ではUVの寄与は退色の半分未満
  • LED照明にUVフィルタは「不要」(CCI Table 2b)
  • 退色を減らす手段は露光量(照度×時間)を減らすことだけ
  • 光源別のUV出力(µW/lm)は文書の表として引用できる
  • ISO Blue Wool別の退光量は、主張の根拠として使える

言えないこと

  • UV-A・UV-B、帯域別の透過率の具体的な数値 検索すると「UV-Bはほとんど透過しない」「1枚ガラスでUV-Aの30〜40%カット」「70%以上透過」など、数値と出典が対応しない記述が併存していた。一次出典が見つかっていない以上、数字は書かない。
  • あなたの部屋の、退色までの年数 計算には照度(lux)と、所持品のISO Blue Wool等級の両方が要る。どちらも読者もこちらも知り得ない。
  • 特定の商品が退色を「防ぐ」こと 遮光・不透明・調光・時間制御——確認できる性質はあっても、退色そのものを止める保証ではない。

目盛りは0からDまで——「言える」のはこの並び順そのもの。「言えない」のは、あなたの棚が今どの段にいるかで、それが分かるのは照度計を持つ人だけだ。

第七葉・商品A–D

「光を減らすもの」

ここに挙げるのは退色を止める製品ではない。届く光の量か、照らされている時間を減らす——その性質だけが確認できたものに限る。

全14点に共通:いずれも退色そのものを止める効果は確認されていない。「できないこと」欄は、それぞれに固有の限界だけを記す。

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奥付0–D

出典

  • 公的機関の技術文書

    Stefan Michalski, "Agent of Deterioration: Light, Ultraviolet and Infrared"

    Canadian Conservation Institute(カナダ文化財保存研究所、カナダ政府機関)

    CCI 技術文書 — Agent of Deterioration: Light, Ultraviolet and Infrared

    この帳簿の中核となる引用・数値(本文の主張、Table 1、Table 2a/2b、Table 4、Figure 3a/3bの観察)はすべてこの文書から。

  • メーカー技術解説(参考・非採用)

    AGC旭硝子プラザ「ガラスの豆知識」

    AGC旭硝子プラザ「ガラスの豆知識」

    3mm厚透明板ガラスの紫外線透過率74.3%(ISO 9050、波長300〜380nm)が最もよく引用される数字だが、 この帳簿ではそのまま提示しない。300〜380nmを一括した値であり、UV-A・UV-B別の内訳を示していない—— つまり「見た目の退色にどれだけ効くか」という問いには答えていない数字だからだ。